「研修のたびに同じ説明を繰り返していませんか」

新入社員が入るたびに、同じ業務手順を1時間かけて説明する。拠点ごとに教える人が違うから、微妙にやり方が統一されていない。ベテラン社員が退職したら、そのノウハウごと消えてしまった。

こうした場面に心当たりがあるなら、社内研修動画の内製化を検討する価値があります。外注すれば1本あたり数十万円かかる研修動画も、社内で作れば機材費と編集ソフトだけで済みます。しかも、業務内容が変わったときにすぐ更新できるのが最大のメリットです。

この記事では、動画制作の専門チームがいない企業でも始められる、社内研修動画の企画から配信までの全手順を解説します。来週から「まず1本」作ってみるところまでたどり着けるよう、具体的な手順に絞って説明していきます。

研修動画の内製化が求められている背景

厚生労働省の令和5年度 能力開発基本調査によると、OFF-JTを実施した事業所のうち、eラーニングを活用している割合は年々増加しています。背景にあるのは、リモートワークの定着と人材の流動化です。

従来の「先輩が横について教える」方式は、教える側の時間を大きく奪います。従業員80名、営業拠点3箇所の卸売業を例にとると、4月の新人研修だけで各拠点のマネージャーがのべ40時間以上を教育に費やしていたケースがあります。同じ内容を動画にしておけば、この時間の大半を本来の業務に充てられます。

加えて、動画には「何度でも見返せる」という強みがあります。テキストマニュアルでは伝わりにくい操作手順や接客の所作も、実際の動きを見せれば一発で理解できます。「あの研修、もう一回聞きたいんですけど」という問い合わせがなくなるだけでも、現場の負担は大きく減ります。

企画段階で押さえるべき3つの原則

研修動画を作り始める前に、この3つの原則を頭に入れておいてください。ここを飛ばすと「作ったけど誰も見ない動画」が量産されます。

原則1: 1本の動画で扱うテーマは1つだけ

「新入社員向け総合研修」を60分の動画1本にまとめたくなる気持ちはわかります。しかし、長い動画は最後まで見てもらえません。1本5〜10分、テーマを1つに絞るのが鉄則です。

たとえば「電話応対マナー」なら、「電話の受け方」「折り返しの伝え方」「クレーム電話の初動」で3本に分けます。社員は必要な動画だけをピンポイントで見返せるので、学習効率が上がります。

原則2: 視聴者の前提知識に合わせる

経理部向けの「月次決算の手順」を作るとき、簿記2級レベルの知識を前提にするのか、簿記を知らない新人にも分かるように作るのかで、内容はまったく変わります。

動画を企画するときは、最初に「この動画を見る人は、何を知っていて何を知らないのか」を書き出してください。これが曖昧なまま撮影に入ると、専門用語だらけで新人には理解できない動画か、ベテランには退屈すぎる動画のどちらかになります。

原則3: 更新しやすい構造で作る

業務手順は変わるものです。システムのUIが変わった、法改正で手続きが変わった。そのたびに動画を全部撮り直すのは現実的ではありません。

対策として、動画を「説明パート」と「画面操作パート」に分けて撮影しておきます。画面操作だけが変わったなら、そのパートだけ撮り直して差し替えれば済みます。テロップやナレーションで補足している部分も、後から編集しやすい形にしておくことが大切です。

必要な機材と撮影環境の整え方

「動画制作には高価な機材が必要」と思われがちですが、社内研修動画に映画のようなクオリティは求められていません。伝わればいいのです。

カメラ

最近のスマートフォンであれば、4K撮影に対応しているものがほとんどです。研修動画であれば、フルHD(1080p)で十分なので、手持ちのスマートフォンで問題ありません。三脚やスマートフォン用のホルダー(2,000〜3,000円程度)を用意すれば、手ブレのない安定した映像が撮れます。

画面操作を見せる研修動画なら、カメラすら不要です。OBS Studioという無料の画面録画ソフトを使えば、パソコンの画面をそのまま録画できます。Webカメラの映像を画面の隅に小さく表示する「ワイプ」も簡単に設定できるので、解説者の顔を見せながら操作手順を説明する動画が作れます。

スマートフォンでの撮影テクニックについては、当サイトの企業紹介動画をスマートフォンだけで作る実践ガイドでも詳しく解説していますので、あわせて参考にしてください。

音声

実は、映像のクオリティより音声のクオリティのほうがはるかに重要です。画質が多少粗くても内容は伝わりますが、音声が聞き取りにくいと動画の価値は一気にゼロになります。

スマートフォンの内蔵マイクでも静かな会議室で撮影すれば問題ありませんが、3,000〜5,000円程度のピンマイク(ラベリアマイク)を1つ持っておくと、格段に聞き取りやすくなります。エアコンの音、廊下の話し声、キーボードのタイプ音など、収録時に気にならなくても再生すると目立つノイズは多いので、撮影前に30秒ほどテスト録音して確認する習慣をつけてください。

照明

窓からの自然光が一番きれいに撮れます。話者が窓に向かって座り、カメラを窓と話者の間に置く形がベストです。窓を背にすると逆光で顔が暗くなるので注意してください。

窓のない部屋や夜間に撮影する場合は、デスクライトを2つ用意して、話者の斜め前方の左右から照らすだけでも十分です。天井の蛍光灯だけだと顔に影ができやすいので、補助光を足すことを意識しましょう。

編集の基本と無料で使えるツール

撮影した素材をそのまま公開するのではなく、最低限の編集を加えることで、視聴体験が大きく変わります。

おすすめの無料編集ソフト

研修動画の編集であれば、DaVinci Resolveがおすすめです。プロの映像制作現場でも使われているソフトですが、無料版でも研修動画に必要な機能はすべて揃っています。カット編集、テロップの挿入、BGMの追加、画面の拡大(ズーム)など、基本的な操作はYouTubeの公式ヘルプやDaVinci Resolveのチュートリアルで学べます。

Windows標準の「Clipchamp」も、簡単なカット編集とテロップ挿入だけなら十分に使えます。編集ソフトを触ったことがない方は、こちらから始めてみるのもよいでしょう。

編集で必ずやるべき3つのこと

研修動画の編集では、凝った演出は不要です。以下の3つだけ押さえておけば十分です。

不要な部分のカット: 言い間違い、長い沈黙、「えーっと」の連発など、内容に関係ない部分を削ります。これだけで動画のテンポが劇的に良くなります。

テロップの挿入: キーワードや手順の番号をテロップで表示します。音声を出せない環境で視聴する社員もいるため、重要なポイントはテロップでも伝えるようにしてください。すべての発言に字幕をつける必要はありません。見出しや要点だけで十分です。

チャプターの設定: 5分以上の動画には、「0:00 イントロ / 0:30 手順1 / 2:15 手順2」のようにチャプターを設定しておきます。見返したい箇所にすぐジャンプできるので、社員の利便性が大きく向上します。

台本は「箇条書き」で十分

「台本を一字一句書いて、それを読み上げる」方式はおすすめしません。棒読みになって、見ている側が眠くなります。

代わりに、話す内容を箇条書きでメモしておき、それを見ながら自分の言葉で説明するスタイルが自然です。具体的には、以下のような構成メモを用意します。

  • この動画のゴール(視聴後に何ができるようになるか)

  • 説明する手順を番号で列挙

  • 各手順のポイント(間違えやすい箇所、注意点)

  • よくある質問への回答

完璧にしゃべろうとしなくて大丈夫です。言い間違えたら、その部分だけ言い直して撮り直し、編集でつなげればOKです。回を重ねるごとに慣れてきて、撮り直しの回数は自然に減っていきます。

社内への配信と活用のしくみづくり

動画を作っただけでは意味がありません。社員が必要なときに必要な動画をすぐ見つけられる仕組みを作ることが、研修動画を「資産」に変えるカギです。

配信プラットフォームの選び方

社内限定で配信する場合、主な選択肢は3つあります。

YouTubeの限定公開: URLを知っている人だけが視聴できます。追加コストゼロで使え、スマートフォンからも見やすいのが利点です。ただし、URLが社外に漏れると誰でも見られてしまうため、機密性の高い内容には向きません。

Google DriveやSharePoint: すでにGoogle WorkspaceやMicrosoft 365を導入している企業なら、共有ドライブにフォルダを作って動画を格納するのが手軽です。アクセス権限を細かく設定できるので、部署ごとに見せる動画を分けることもできます。

専用のLMS(学習管理システム): 視聴履歴の管理、テストの実施、修了証の発行など、本格的な研修管理が必要な場合はLMSの導入を検討してください。無料で始められるオープンソースのLMSとしてはMoodleが有名です。

動画を「見てもらう」工夫

動画を共有フォルダに置いただけでは、ほとんどの社員は見てくれません。以下の工夫で視聴率を上げられます。

まず、動画の一覧表を作ってください。Excelやスプレッドシートで「動画タイトル / 対象者 / 所要時間 / リンク」の4列を整理するだけで十分です。新入社員には「入社1週目に見る動画リスト」として渡せば、何をどの順番で見ればいいか迷いません。

次に、既存の業務フローに組み込むことです。たとえば「新しい経費精算システムの使い方」動画を作ったら、経費精算の申請フォームに動画のリンクを貼っておきます。マニュアルを読むより動画を見るほうが早いと分かれば、社員は自然に動画を活用するようになります。

継続的に運用するためのポイント

研修動画は「一度作って終わり」ではなく、継続的に更新・追加していくことで価値が増していきます。

制作担当を決める

「誰かが空いているときに作る」という運用だと、いつまでも動画は増えません。各部署から1名ずつ「動画制作担当」を決めて、月に1本のペースで制作するのが現実的です。最初は情報システム部や総務部など、全社に関わる部署から始めると、効果を実感しやすくなります。

テンプレートを作っておく

冒頭のタイトル画面、テロップのフォントと色、エンディング画面など、共通のテンプレートを用意しておくと、誰が作っても統一感のある動画になります。編集ソフトのプロジェクトファイルをテンプレートとして共有しておけば、毎回ゼロから設定する手間もなくなります。

フィードバックを集める

動画を公開したら、視聴した社員にアンケートを取りましょう。「分かりにくかった箇所はあるか」「もっと詳しく知りたい内容はあるか」の2問だけで十分です。このフィードバックをもとに動画を改善していけば、研修動画のクオリティは着実に上がっていきます。

まず来週、1本作ってみてください

完璧な研修動画を最初から目指す必要はありません。まずは、社内で一番よく聞かれる質問を1つ選んで、スマートフォンで5分の動画を撮ってみてください。「経費精算システムの使い方」「会議室の予約方法」「社内チャットのルール」など、日常的に何度も説明している内容が最適な第一歩です。

編集はカット編集だけで構いません。撮影から公開まで、おそらく1〜2時間で完了します。その1本が「いつも同じ説明をしなくて済むようになった」という体験につながれば、2本目、3本目と自然に増えていくはずです。